踏みしめた砂が、足の指の隙間を滑る。
一歩、また一歩と進んで行く体に打ち寄せる波が触れる度に、ひとつ、またひとつ、と自分が抜き取られて行くようだった。
「――……」
言葉が、出てこない。さらわれたのだ。この海に。さらわれて、海になったのだ。そして空っぽの塊だけ、ここにある。
爪先が波に触れる。引いていく瞬間、そこが溶け出したように見えて、わらった。静かに、大きく。誰に咎められることもない。
踝が砂に絡めとられてゆく。その優しい束縛に縋った。
どぷん。波の音の中に空っぽの塊が海へと落ちた。境界線があやふやになっていく。心地良い。なにもかもが、溶けだしていく。海に、なれる。
不規則に漂って沖の方まで辿り着くと、ゆっくり海になりゆく塊はその水平線へ飛沫を飛ばして小さな虹を架け、それを墓標代わりに置いて海へ滲み溶けた。
辺りには一面の揺らぎと、双方の蒼を隔てる水平線が引かれるばかりである。
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